どんなに望んでももう戻ることはできないから。


アクセラレータ


人間というものはなんて哀れで愚かなものなのだろう。そう思っていても自分は人間という枷から逃れることは出来ないし、逃れようとも思わないけれど(脳味噌を取り除いてしまえばきっと逃れられるのだろうが、それは死を意味しているし)。
機械はいい。悩むこともないし悲しむこともない。それに裏切ることもない。目の前で蕩けていく鉄の部品がひどく微笑ましい。本来在るべきところにその塊を置いて冷ます。圧倒的な熱量は地球をほぼ占める空気にどんどん吸収されてく。白い蒸気が立ち上った後には元通りになったDホイールの姿があった。調整は完了だ。……俺達はもう道を違えてしまった。きっと、二度と共に歩むことはないだろう。楽しい日々を送れたことは間違いない、心残りがないと言ったら嘘になる。だが、もうそれは全て崩れ去った過去だ。俺には今の仲間がいる、それでいい。
立ち上がれ、迷っている暇はない。俺がサテライトを……俺たちの世界を、救うんだ。シグナーとして、それからあいつらの仲間として。
過去は捨てるべきではない、捨てることなどできない。そんなことは分かっている。全てを捨てようとした奴の末路を俺は知っているから。だけど――それ以外の悩まず済む方法を俺は知らない。

だから俺は、もう後ろを見ない。





進むだけだ、その先が闇だとしても / 100128