「サヨナラ」



See you again.





彼はゼクロムと一緒に旅立った。どこへ、とは聞けなかった。止めることもできなかった。だって、彼は彼なりの覚悟と決意をもって旅立ったんだろう。考えは人の数だけある、彼の思いを僕は止めることはできない。この旅で学んだひとつの答えだ。
レシラムを見遣ると、彼らが飛び去った空をじっと見つめていた。創世神ともいえる存在、レシラム。その眼には、僕にはもう見えない彼らの姿が見えているのだろうか。しばらく見つめていたら、僕の視線に気付いたのだろう、レシラムはこちらを向いた。その青いいろをした瞳は彼らを飲み込んだ空の色に似ていた。そこに在る、それだけでこの威圧感。……レシラムは、人間の英雄と共にあると決めた自らの片割れをどう思っているのだろうか。僕は彼と違う、普通のトレーナーだ。すこしばかりポケモン勝負のうまい、至って平凡な一般人だ。だからレシラムと言葉でわかりあうことはできない。でも、多分、彼らと戦ったとき、僕らはひとつだった。レシラムだけじゃなく、僕の仲間全員がひとつになって戦った。人とポケモンは言葉なんか通じなくたって、分かりあうことができるんだと思う。それは選ばれたひとたちだけじゃなくて誰にだってできることだと、誰にだってポケモンと分かりあえるんだと、僕はそう信じたい。
「レシラム、そらをとぶ!」
さぁ、家に帰ろう。帰ってお母さんの暖かいスープを飲んで、チェレンやベルとおしゃべりして、……それから、僕の夢を叶えに行こう。それが彼の為にできることでもあるし、僕のしたいことでもある。
レシラムは頷いて僕に背中を向け乗るように促した。抱き着くように捕まると、レシラムはすこし喉を鳴らして、翼を広げ宙へと旅立った。どんどん小さくなっていくプラズマ団の城。彼の城。偽りの王様はもういない。きっと彼とゼクロムもどこかの空を飛んでいるんだろう、自分の世界を広げるために。


(きっといつかまた会える。)
僕は信じてる。だって、僕とNは、友達なんだから。
そのとおりだ、と。レシラムが言ったような気がした。


彼らは別々の道を行く。 / 101001