A little prayer for you.





約束したんだ。と彼は言った。その顔は酷く哀しそうで、だけどとても幸せそうだった。ああ、この人にはとても大切なひとがいるんだ、と私は思った。バトルサブウェイで知り合った彼はなかなか強いトレーナーだった。今は勝負を終えて、辺りの喫茶店に入って祝杯をあげているところだ。彼の好きな人は今は遠いところにいるらしい。連絡も取れないようなところだと教えてくれた。それって違う地方のことかな、すごくアクティブな恋人さんみたい。それから私達は延々とその恋人さんについて話した。その時の彼は私が今まで見たうちで一番生き生きしていた。

ある日私が気ままにふらふらしていると、空に二頭の竜が見えた。どこかで聞いた伝説の竜に似ている気がしたけど、すごい速さでどこかへいってしまったので詳しく見えなかった。伝説の二竜は英雄と共に在るという。もしかしたら英雄もいたのかな、ぜひ会ってみたいものだ。プラズマ団の噂はかねがね聞いている。それを倒した英雄と、それからプラズマ団のボスという二人の英雄。なんだかお伽噺みたいだけど。

その次の日、彼がやってきた。マルチトレインにやってきたのでいつも通りタッグを組む。今日は負けられないからね、と彼が言うのでどうして、と聞き返した。秘密!何それ可愛くない。ふと思い至って観客を見るとそこには見慣れない緑色の髪をした青年がいた。ブラックが手を振ると彼も手を振り返した。ああ、彼らは友達なんだなと私は思った。相手が出てきて口上をつらつらと言う、その間に彼に小声で話しかけた。
「彼女が来てるのかと思った。」
「……まぁ、間違ってないかな。」
照れ笑いしながら小声でそう言う彼に聞き返す間もなく試合は始まった。結果はすばらしいものだった。サブウェイマスターに余裕で勝利なんて!終わった後私に礼をいってから彼はすぐあの青年の元に駆けていった。……まぁ、彼らが幸せならそれでいいか。私はひとり納得して、自分のポケモンを休ませにポケモンセンターへ向かった。センターにポケモンを預け一人風景を眺めていたら空にはまた二頭の竜が。その背には――。


私は何も言わない。彼らの関係は私が思っていたのよりもっと難しくて複雑で、でもきっと彼らは今幸せなのだろう。なら私が口を出す必要はない。……願わくば、彼らと二頭の竜がもう離れ離れになることがありませんように。そして彼らが幸せでありますように。




或る一人のポケモントレーナーの独白。 / 101012