reunion again.





ひとつ小さく嘆息して、ボクはペンを置いた。机の上はなんども書き直したせいで紙がいたるところに散らばっている。手紙というのは彼と文通してから初めて書くことになったけど、なんて難しいものなんだろう。残念ながらボクは字が上手い方ではない。それに書けた、と思っても読み返すとどうしても気になる個所があったりして、結局書きなおしだ。しばらくして見回りにきた人に手紙を渡す。ここのシステムは正直あまりよくわからないけど、彼からの返事がきちんとやってくるということは嬉しい。渡すときに釈放決定おめでとうと言われた。そう、今日伝達があった。仮釈放ってやつらしいけど、嬉しいかぎりだ。……手紙にはそのことは書かなかった。どうして、なんて言われてもはっきり答えられないけど。ボクは犯罪者だ。そのつもりはなかったけど、やってたことは立派な。ボクは彼にとっての重荷になりたくないし、もし彼が後悔しているならそのときはここから出て、そのまま消えて行ってしまえばいいと思った。
多分、逃げているのはボクだ。不安でたまらない。彼がもしもうボクを嫌っていたらどうしようとか、もし後悔させてしまっていたらどうしようとか。彼に手紙を書いたら考えがまとまると思っていたら大間違いだった。今、彼に会うのがたまらなく楽しみで、それと同じくらい怖い。
まとまらない考えを放り投げて寝転んだ。今は寝てしまおう。答えを出すのにはまだ時間がある。



当日、未だ答えは出せていないままだ。連れてこられた先は大きな門の前。初めて気付いたけど、ここの周りには大きな塀があって、ポケモンと一緒に受刑者が逃げ出さないようになっているようだ。顔見知りになったここの人と二言三言会話して、ボクは門の前に立つ。時間はあと30分くらいだ。

ここから出たらどうしようか。とりあえず手持ちのポケモン達を外で遊ばせてあげたい。また世界を回るのもいいかもしれない。そういえばあそこで会ったポケモン達は今どうしているんだろうか。ここにきてから一年間は結構辛かったけど、僕はここで成長できたと思う。

あと5分。ゼクロムのモンスターボールが幽かに揺れた。どうしたの、と問いかけると、ゼクロムは嬉しそうな声で秘密と言った。

ゼクロム。レシラム。そう、彼だ。彼はまだ僕のことを想っていてくれているだろうか。それを確かめるのが怖い。ボクは……未だ彼のことが好きだ。きっとこれからも彼のことを特別だと思って生きていくことになるだろう。でも彼は。余りある才能と魅力を持つ彼は。ボクが縛っていいのかと、彼と一緒に居てもいいのだろうかと、最近よくそのことを考えるようになった。おそらく検閲が入るだろう手紙ではそういうことを匂わす訳にはいかなかったし、当たり障りのない内容しか書いていない。そう、結局。好きと言われたのはあの一年前のあのときだけなのだ。彼が心変わりしていたって何もおかしくない。彼に会うのが怖い。逃げていると分かっていても。

1分前。ぎぎぎ、と扉が軋む音がして、ゆっくりと開き始めた。扉によって止められていた風の流れが開くことによって勢いを増す。髪の毛が風になびく。モンスターボールが光って、ゼクロムがボクを風から庇うように出てきた。ありがとう。
そして、ふと、前を見た。

ああ、しあわせってこういうことを言うのか。


震える足で前へと進む。白い竜と共に佇む彼の方へ。おぼろげだった彼の影はだんだんはっきりしたものに変わっていった。彼はすこし背が伸びていて、大人の男っぽくなっていた。でもそれ以外はあのときとそう変わっていない。ゼクロムはきっと気付いていたんだろう、レシラムがこの門の向こうに居ると。あと一歩、そこでボクは駆けだして、彼に思いっきり抱きついた。彼もそれをしっかりと、抱きとめてくれた。僕は泣きそうになりながらなんとか声をいつもと変えず言いたかったことを絞り出す。二人ともこれ以上ないほどの笑顔で。

「ただいま、ブラック。」
「おかえり、N!」

結局ボクは考え過ぎていたのかもしれない。だって彼は今ここに居る。約束通り、ボクを迎えに来てくれた。ボクが隣にいることを許してくれた。彼から、ボクの居場所はここにあるよ、と。それが何よりも嬉しくて――そして、幸せだ。





再再会 / 101018