掴んだキミの手はすこし温かくてボクは唐突に泣きたくなったのだ。


How could I ask for more.


なんとなく朝早く家を飛び出した。小さな小さな旅に出かけようと思い立ったのだ。本当になんとなくで理由なんてないけど、トモダチが入っているボールだけを持って飛び出した。ブラックに心配させないように机の上には一応置手紙を置いておいた。

ポケモンリーグ近くの山に登って、日の出を見た。久々にひとりでみた日の出はひどく澄んでいた。それから各地をぐるぐると回って、トモダチ達に会いに行った。ボクの運命が変わったあの旅で回ったところ。久々にあったトモダチに、君は変わったねと言われた。どこがと問い返すと生き生きしているなと返ってきた。その言葉に笑みを返しその頭を優しくなでた。あの旅と同じ一人での小さな旅。だけどあのころと違ってボクにはプラズマ団もゲーチスもいない。でも今はボクの隣でボクを想ってくれるひとがいるんだ。

シッポウシティでご飯を食べていると後ろから声を掛けられた。チェレンとベルだ。彼らもこの街に来ていたらしい。デートなんだろうか、邪魔しちゃ悪いなと思ったけど、ベルとチェレンの駆け合いを見ていたらいつのまにか一緒にご飯を食べていた。雰囲気に流されやすかったのかなボク。会計を済ませた後、一緒に遊びに行かないかと言われたけど流石にそこまでしてもらうのは悪いので断る。去り際にチェレンにデート頑張ってねと小声で言ったらチェレンは顔を赤くしてボクを睨んだ。ベルは何があったのかときょとんとしている。ああ、ブラックはこの二人を見ているとききっとこんな気持ちなんだな。かわいい、なんてきっと言ったらチェレンは怒るだろうけど。思わず零れた笑みはゾロアークにしっかりと見られていて、にやにやするなと諌められてしまった。ボクの昔からのトモダチは口がすこし悪いのが困りものだ。

午後はイッシュの東側を廻った。あまり行ったことのなかったこの土地は知らないポケモンも沢山いたけど、同時に強いトレーナーたちも沢山いた。ブラックシティにも行ってきた。Nは行っちゃ駄目だよなんてブラックから言われていたからどんな町なのだろうと思っていたけど、一足入ってみたら殆ど更地の状態だった。僅かに残った住人に話を聞くとここには少し前まではビルや市場が合ったらしい。行くことができなくて残念だ。

ビレッジブリッジで聞こえてくる誰かの歌を聴きながらだんだんと赤色に染まっていく空を眺める。そのとき、空に白色の竜の姿が。
「ブラック。」
「……淋しくて迎えにきちゃった。」
少し拗ねたように言う彼にボクは笑いかけて、手を差し出す。ブラックはそれをしっかりと握った。
さぁ、帰ろうか。


(多分帰る場所があると言うのは幸せなことで、それから共にいたいと思える人がいることもとても幸せなことで。これ以上幸せになってどうするのと思わなくもないけど、でもボクはキミのことをもっと知って、これから先もずっとキミと一緒に歩いて行けたらと思う。)




帰る場所 / 101107