あのときまでボクの世界はきっとあなたのためにあったんだろう。 To be continued ある日ポストに新聞と一緒に一通の手紙が入っていた。今時手紙なんて珍しいな、なんて思いながら宛先を確認する。驚いたことにそれはボク宛で、不思議に思いながら家に入りながらその封を開けた。中から出てきた手紙にはどこかでみた紋章が印刷されていた。そう、それは。ボクは背筋を正してそれを見つめた。 「N、新聞あったー?」 ブラックの声で我に返って、手紙を服のポケットに突っ込む。なんとなく、彼にばれてはいけないと思った。 朝食が終わってから、自室に戻ってもう一度手紙を見る。ゲーチスの服に書かれていた紋章と全く同じ模様で飾られたその手紙。それにはどこかの場所だけ書かれていた。他には何も書かれていない。でも、僕にはわかる。これはきっとあの人が今居る所。すぐさまボクはゼクロムに飛び乗ってその場所へ向かった。なぜか、行かなければいけない気がした。 ジャイアントホールの洞窟のなか、その手紙に書かれた通りのところにあの人はいた。何を言おうかと迷っていると向こうから声を掛けられた。 「N、そこにいるのでしょう。出てきなさい。」 ゲーチスに呼ばれるのはとても久しぶりなことで、ボクは思わずその声の通りにあの人の前に姿を見せる。同時にゲーチスの顔をはっきり正面から見た。すこし肉が落ちてやつれているようだ。もしくは年をとったと言うべきか。なんとなくボクと彼との時間をを感じて、少し身構える。何を言おうか考えながらとりあえず挨拶をするべきだろうと思って口を開きかけると、それに被せるように彼が僕に言った。 「ワタクシは今でも諦めていません。必ずやいつかこの世界をこの手中に収めて見せます。……ですが、アナタはどうしたのですか。あのブラックという少年やその周りの人々に惑わされ、アナタは、お前は本来思っていたことを忘れてしまっている。」 多分、その言葉に込められていたのは紛れもない憎しみと嫌悪だった。 「お前は今何のために生きている?」 ボクは気押されて何も言えない。 「お前はあの頃感じたものを忘れたのか?」 ボクは何も言えない。 「お前は、只の抜けがらだ。」 ボクは――。 確かに、日和っているという自覚はあった。あの頃感じたような痛みを感じなくなってきていると思った。あんなに望んでいた夢をきれいさっぱり忘れてしまったような気がしていた。旅をしてポケモンと人間を知っていくにつれ、あの頃の気持ちを忘れていった。そしてあんなに憎いと思っていた人間がだんだん好きになってしまった。……だけど、だけどそれは。違うんだ。それは良いことだなんて断言できないけど、でも決して悪いことじゃない。だってボクは。ボクと一緒に戦ってくれたポケモン達は。そして、ボクに手を差し伸べてくれた、ボクを救ってくれた彼は――! 「……あの時まで。」 ボクははっきりと、ゲーチスの目を見据えて言う。それに今の僕の精一杯の意思を込めて。 「あの時までのボクの世界はきっとあなたがあなたのために創ったものだった。だけど、それはボクの一部だ。そして今ボクの周りには大切な人とポケモンとが一緒に手を取り合いながら存在している――それだけで、十分だよ。」 「ボクは今、ボクのために生きている。」 ゲーチスは毒気を抜かれたようにそれを聞いた。そして、悟ったように口を開く。 「それがアナタの答えですか。」 「うん。これ以上ないってくらい。」 「ならばそれを何としてでも守って見せなさい。」 「……ゲーチスはどうするの。」 「とりあえず国外逃亡ですかね。ここではあまりに顔が知られ過ぎている。……N、心しておきなさい。ワタクシは何度でも挑戦する。もしアナタがあなたの周りの世界を守りたいと思うなら、時には残虐さも必要なのです。」 そう早口で言って、ゲーチスはサザンドラをボールから出し空へ飛び立とうとした。これが、もしかしたら一生で最後なのかもしれない。そう思うと同時にボクは思わすその背に声を掛けていた。 「ありがとう、父さん!」 ゲーチスは言葉を返さなかった、けど。彼のあの時の表情をきっとボクは一生忘れないだろう。 ボクはもう立ち止まらない。 ありがとうゲーチス、ボクを育ててくれて。 さようなら、父さん。 |
さぁ、彼の待つ家に帰ろう。 / 101123