prologue





ボクはとても驚いた。偶然会って、家に招待してくれて、それだけでもボクにとっては十二分に喜ばしいことだったのに、彼はあろうことか僕と一緒に暮さないかという。やっぱり三年程度の時間では人間というものはまったく理解できない。少しは理解してきたと思っていたのだが、そう考えるとちょっと哀しくなる。とりあえず理由を聞いてみたくて、言ってから固まっちゃってるブラックに向けて、ボクは口を開いた。

「ブラック、それって……」
「いや、えーっと、Nが嫌ならいいんだけどさ。俺もそろそろ家をでなきゃなとか思ってたから……だから、でもNさえ良ければカノコに新しい家を買ってそこで暮らさない?一人だけだと家を買う勝手とか分からないし、やっぱほら、淋しいじゃない。……だめ、かな。」

最初彼はボクと同じくらいの早口でまくしたてるようにして喋っていたけど、最後の言葉は絞り出すようにして言った。ああ、彼はルームシェアするような人間を探していたのか、とようやくボクは理解した。ベルとチェレンに頼まなかったのはきっと彼が二人の仲を応援しているからだろう、と。……さて、どうしよう。まだ回りたい世界もある、だけど無二の片割れの望みを無碍に断るのもどうなんだろう。それにボクは彼の、彼らの隣がとても暖かいのを知ってしまった。どうしよう……考えこんでいたら、ゼクロムのモンスターボールが小さく揺れた。そうか、そうだよね。

「いいよ。」
「えっ、あ、ホントに?!」
「うん、ゼクロムもレシラムと一緒に居たいらしいし。」
「わあっ、ありがとう!!」

こういうときに素直にキミたちと住みたいって言えるようになるにはあとどれだけの時間がかかるんだろう。やっぱり素直に気持ちを伝えるのは苦手だ。理由に使っちゃってごめんとゼクロムに小声で謝ったら、ゼクロムは平気と言ってくれた。ゼクロムには本当に頭が下がる思いだ。

「でもボク家の勝手とかあまり分からないよ?手順とかなら知ってるけど。」
「そっか、まぁ二人で勉強していこうよ。Nはどんなのがいい?」
「城みたいなのは良いと思うけど。」
「多分そういう家はないと思うな……」

話していると家のドアが思い切りよく開いてたっだいまー!という元気な声がした。どうやら二人とも帰ってきたようだ。ブラックが上機嫌で言う。

「今日はパーティだね!」
「パーティ?あのクリスマスにやるような?」
「まぁそんな感じ。今日はお祝いだからね!」
「レシラムに出会ってから三周年か。早いものだね。」
「うん、それもあるけどやっぱり」

そこでブラックは僕の手をとりぎゅっと握る。繋いだ手のひらはとても暖かかった。

「僕と君の記念日、かな!」

そんな笑顔で言われちゃもう何も言えない。一応ボクにとっては今日は忌むべき日といっても過言じゃなかったのだけど(なんたってプラズマ団が彼に壊滅させられた日だ。)、今日を良い日にしても悪くないかな、と思ってしまった。でもなんだろうちょっと恥ずかしいとか思いながらボクと彼は玄関へベルとチェレンを迎えにいった。だけど、やっぱり、彼はとてもいい人だ。本当に、レシラムに選ばれたのが彼でよかったと心から思う。


さぁ、新しい生活の始まりだ。




手を取り合って、さぁ、次のステージへ進もう。 / 101004