A happening





芸術の秋ということで、座ってスケッチブックに絵を書いていたら、N、それって一体なにやってるの?と、ブラックが興味津々な顔で覗き込んできた。写生だよ。そう簡単に答えたらブラックはかあって効果音が似合うような勢いで真っ赤になった。しゃ、しゃせー?戸惑いながら聞いてくるのはとても見ていて興味深いけど、多分なにかと勘違いしてるんだろう。スケッチのことだよととりあえず捕捉しておいたら合点が言ったみたいで、あぁ、そっちか……と気恥ずかしそうに言った。なんとなくその様子が可愛らしくて、ぽふっと頭を撫でる。子供扱いするな!ああ、ごめんごめん。可愛くてつい。可愛いって……どっちがさ。拗ねたように呟かれても、ボクは自分が可愛いと思ったことは無いので分からない。ボクって可愛いの?聞いたらブラックはまた顔を赤くして黙ってしまった。どうしたんだろう。ブラック?何回か呼び掛けたらようやく返事が返ってきた。ああもう、そうだよ可愛いよばか!まさかそう言われるとは思わなかったのでボクは目を丸くして彼を見つめた。彼は顔をやっぱり真っ赤にしながらボクを見つめていた。なんだが気恥ずかしくてボクは彼から目を反らす。すると彼の手がのびてきて彼の方に顔を向けさせられた。N。呼び掛けられてもなにを言えばいいのか分からない。そのまま彼の顔が迫ってきて――そこで、来訪を告げるチャイムが家に響いた。彼はぱっと手を離してドアの方を見る。ボクは動けないまま彼を見つめていた。外からチェレンとベルの声が聞こえる。……ごめん。ブラックはそう一言早口で謝って、玄関を開けるためにぱたぱたと走っていった。

午後の光が差し込む窓の下、スケッチブックのページだけが風に揺られ、忙しくぱらぱらめくれていた。





昼下がりの小さな事件 / 101004