One day





家を買うというのはたとえお金があっても大変だということを僕は知った。あとどれだけ面倒な手続きをしなければいけないんだろう。Nは戸籍などはきっと持っていないだろうし、僕がやらなきゃいけないのは分かっているんだけど、それでもやっぱり疲れる。Nもそれは察してくれていて、僕が家に帰ると母さんと一緒に(母さんはNを泊めることを快く承諾してくれた、良い親を僕はもったものだ。有難い。)ご飯を作ったりして待っててくれている。Nはエプロン姿がなかなか似合う。顔立ちが整っているせいもあるだろうけど。天才肌なのか、料理を教えたらすぐその技術を覚えて作れるようになっていくらしい。母さんが自慢みたいに話していた。その調子で花嫁修業してやってくださいと言ったらお嫁になんて行かせませんと言われてしまった。なんてことだ。
「ごちそうさまでした。」
お皿とお椀を重ねて流しまで持っていく。Nはまだ食べている途中だ。彼は食事中は無口になる。そしてゆっくり食べる。ひとくちさんじゅっかい、なんて小学生みたいなルールをきっちりまもっているんじゃないかってくらいゆっくりだ。することもないので食事をしていた椅子に戻ってぼーっとテレビを見遣る。今日は母さんは地域の会議にいっていていない。この料理はNが作ったものだったらしい。なかなか美味しかった。
「……ごちそうさまでした。」
Nがようやくご飯を食べ終わったようだ。きれいに食べきっている。美味しかったよと伝えると少し照れた顔ではにかんでありがとうと言われた。……可愛い。もう誰が何と言おうと可愛い。どうしよう僕。
「そういえばブラック、家のことはどうなったの?」
「ああ、もうすぐ買えれそう。そんなにいいところじゃないけれど。」
「そうなんだ、良かった。それにしてもブラックどこにそんなお金が?」
「一応これでもチャンピオンなんだよ。」
「そういえばそうだったね……。」
「そういえばってひどい。」
口を尖らせて言うとあははとNは笑う。この三年で随分表情も柔らかくなっている。彼は三年間のうち成長を続けてきたのだ。そう考えると僕はどうなんだろう。どこか成長したんだろうか。少し考えてこんでいるとNが話し始めた。
「そういえばブラックは結構雰囲気変わったよね。」
「そう?」
「うん、なんていうか……うーん。」
「なんだよそれ。」
「あ、そうそう。大人っぽくなったよ。あと、頼もしくなった。」
にへらって笑って言われても困る。主にどきどきするって意味で。こっちも意趣返しのつもりでNに言い返した。
「Nも変わったよ。」
「そうかな。」
「うん、全体的に可愛くなった。」
そういうとNは目を丸くして、どこが?と言った。だからそういうところがだってば。ああ、これはもう治らないやと思ってしまった僕を尻目にNは自分のどこが可愛いのかを真剣に考え始めている。もう、なにやってるんだよ。そんなの僕以外に分からなくたっていいんだよ。ひとつ溜息をついて、でも顔は自然と綻んで、僕は数日後から始まる二人の生活に思いを馳せた。






日常 / 101005