rainyrainy






その日は雨が降っていて、夜遅くになっても帰ってこない彼を探しにボクはゼクロムと一緒に空を飛んでいた。ようやく見つけたとき、雨に打たれながらずぶぬれになってぼーっと地面を見つめているブラックをみてボクはとても驚いた。だっていつだって彼は雨の降る所にいくときはきちんと傘を持っていく人だったのだ。とりあえず彼の傍へ降りて行ってゼクロムをボールへ戻し、もう濡れないように傘を差し出す。それでも彼は下を向いたままだ。しばらくそのまま、ボクらは雨の中佇んでいた。ブラックの頬をつたって水滴がぽつりぽつりと地面へ落ちていく。ボクはブラックが話すのを待っていた。そして、ブラックがようやく口を開く。

「僕、負けちゃった。」

乾いた声だった。一度開いた口は次々と言葉を紡ぎだす。その言葉は無数の刃物だった、彼自身を切り裂くための。

「全力だったらまだ諦めもついたんだ、だけど僕は相手の力量を見誤った、これなら適当にしていても勝てる相手だと、思ってしまった、僕を信じてくれたポケモンに申し訳ない、それから僕にいままで負けてしまったトレーナーたちにも、僕は傲慢だ、卑怯だ、積み上げたものの上に胡坐をかいてたんだ、僕は――、」

ボクは我慢できなくなって、ブラックの頬を叩いた。ぱちん、と乾いた音は雨音にかき消されずに反響して消えた。ブラックは呆気に取られた顔でボクを見ている。ボクは冷たい眼で彼を見て言った。

「本当に、キミはなんて間抜けなんだろうね。そんなことで足元を掬われるなんて。今のキミならボクでも勝てるよ。」
「……N、」
「でも、負けたからって、そこでキミは立ち止まっていいの。」

彼になら、伝わるはずだ。これで。

「ボクの夢を壊したくせにこんなところで諦めるなんてボクは絶対に許さない。」

強い意志を込めてそう言う。ありったけの憎しみと友愛を込めて。

「……うん。ありがとう。」

ブラックはすこし笑って、それから帽子を被りなおした。叩いてごめんねと言うと彼はこちらこそごめんと返した。それから彼はボクの傘を支える手をひっぱって、ボクを抱きしめた。その手はまるで縋るみたいに。

「ごめん、ちょっとこのままでいさせて。」
大丈夫。もう少ししたら立ち直るから。だからもう少しだけ。

急上昇した鼓動と急低下した体温、だけどなんとなく居心地がよくてボクも彼の背に手をまわして抱きしめる。持っていた傘はいつの間にかどこかへ飛んで行ってしまった。ボクと彼、二人してどんどんびしょ濡れになっていく。ざあざあざあ、雨は降り続ける。

彼の頬を伝ったのは雨水か、それとも。




過去と未来と挫折 / 101009