It looks like a happy end.





救えるだけの人を救いたいとその死神は言うのだ。数多の命を取り零してきたその手を、それでも戦うために刀に伸ばして。君がいれば僕はきっと死神というものを見限らずにいれると、思った。そして、その隣に立って共に戦っていけるのではないかと、思ったのだ。


それは、考えればおこがましいことだったのだろう。
(力が欲しい――)
目の前に広がる天井はどうしようもないくらい真っ白で、そこらじゅうに漂う薬品の匂いはここが病院だということをひしひしと感じさせた。切り裂かれた腕はじんじんと痛みを発しているが、昨日よりは随分ましになってきている。的確に処置された腕を見て、結局まだあの人に頼ってしまったんだと思うと、なんだか言いようのない気持ちになった。

あのとき。油断していたわけではない、ただ、分からなかった。得体の知れないあの力。あれは一体なんだったのだろう。あれは死神の力でも、虚の力でも無かった。僕が霊圧を間違えることなどない。だけど、だとしたらあれは。考えに没頭していると、ずきりと腕が痛んだ。情けない。今もしこの街に虚が出たら、僕はどんな傷を以ってでもその虚を倒さなければならないのに。

彼は、あの橙色の髪をした死神はもういない。

あれから、彼が死神の力を失ってから、もう結構な時間が経つ。彼は今普通の生活をしている。死神とか虚とか、そんな得体の知れないものとは無縁の生活。死と隣り合わせの生活なんてありえないような、そんな。
羨ましいとは思わない。失望したとも思わない。それは彼が本来居るべき場所で在るべき姿だ。彼は、それでいいんだ。愛染はもういない。だから、彼が死神でいることはない。こんな危険な世界になんている必要はない。
だから。僕はまた弓を番え、虚を打ち倒すのだ。
(力が、欲しい。)
彼の分まで補って余りあるほどの力が。そして、彼女も彼らも守れるような力が。誰も取り零さないような、そんな力が。
ああ、僕は彼に頼っていたんだ、と今更ながらに思う。呼んだのは僕で、だけどそれからはずっと彼だ。尸魂界に行った時も、虚圏に行った時も、僕は彼についていったようなものだ。虚のことだって、僕はどこかで例え僕が死んでも彼がなんとかしてくれるだろうと考えていたかもしれない。……僕は、多分彼から沢山のものを受け取った。今度は、僕がその恩を返す番だ。
死神代行はもういない。少なくとも、僕のいる死と非常に近く一寸先も分からないようなこの不安定な世界にはもう。今の彼は只の一般人で、彼の世界は僕とは違う。彼が虚が見えなくなっても、まだこの世界に虚はいる。だけど――僕が君を守ろう。君の幸せを守ろう、君の世界を守ろう。それが一度共に戦ったものの役目だ。そして僕を変えてくれた彼への、贐だ。

白い白い天井に向けて伸ばした拳を力を込めて握りしめた。





君がいない世界に命をかけよう。 / 111217