剣を捨てようと思った。血に汚れたそれを捨てることで自分はすべて忘れられるんじゃないかと、自分は英雄だと開き直ることが出来るのではないかと思ったのだ。……分かっている、勿論そんなはずはない。フリオニールはそう、悟ったように自嘲した。もう魔物はいないのにこの手はしっかりとその身を斬る感覚を覚えていて、この脳は痛みや人の死に慣れてしまっていて(おかしくなるならまだしもそれを理路整然と受け入れた上で彼らのそして自分達のためにまた敵を殺すという結論に行き着き)、結局自分が自分を責めはじめる。いや、まず自分が剣を捨てられるはずがないのだ。いつだって、魔物がどこからやってくるのかと日々怯えている。見せる訳にはいかないから、強がってはいるけど。結局、いくら英雄と崇めたてられようと自分は殺していきているのだ。たとえあの皇帝が人じゃなかろうと、彼の未来を自分は手折ってしまったのだ。……皇帝。彼のように、暴君となってしまえたらどれだけ良かっただろう。人の死をなんとも思わずに、全ては自分の望みのためだと言ってしまえたら。フリオニールは皇帝を羨む。今ならすこし分かるかもしれない。彼は確かに悪であり暴君だったけれども、それは自らを守るためだったのではないかということ。きっと彼はそういう意味ではとても人間らしかったのだとフリオニールは思った。


Happy end? / 110325