拍手を贈ろう。見るも無惨で何一つ成すこともなく死んでいった君に。

間桐雁夜のからだを食べ尽くした蟲蔵は幾年も入れ換えていないようなじっとりとした空気にまみれ、ああだから彼は下水道に妙に馴染んでいたのかと今更ながらに納得した。気味の悪い蟲たちが床や壁に所狭しと這いまわっている。こちらへ向かってきた一匹の蟲を足で踏み潰すと、なんとも言えない鳴き声をあげて潰れ消えた。これが、おぞましい間桐の魔術。
ああ彼はどのように死んでいったのだろう。こんな魔術に身を染めてでも尽くそうとしたのに、愛する人に憎まれ嫌われ、助けたかった者も助けられず不様に死んでいった!なんて無駄な。何事も成さない死。遠坂時臣はどう思うだろう、同盟相手がこんな魔術を使って自分の娘を虐げたことを知ったら。知らないまま死んでしまったのは勿体ない。弟子に裏切られた上、自分が娘を地獄に送ったと知ったら、一体どうなっていたのだろう。想像するだけで胸が踊る。
――とても、面白かった。

「ありがとう」
愉悦を知った。生き甲斐を知った。この聖杯戦争に参加して。いろいろなものに出会って。まとうかりや。とおさかときおみ。とても楽しかった。とうとう見つけた。

這いよる蟲を黒鍵で切り捨てる。このうちのどれかが雁夜のからだを消化したのだろう。そして今もなお時臣の娘を蝕んでいる。なんて喜劇だ!
すばらしい。
世界はすばらしい。
私の愉悦を満たすものが溢れている。醜いもの悲しいもの惨いものおおよそ人の嫌う全てがそこにある。そこに人がいる限りありつづける。世界は毒を孕みながら回り続ける。

拍手を。この醜く薄汚れた素晴らしい世界に盛大な拍手を。
そして、とうとう生まれいでた私の愉悦に精一杯の愛と行動を。

私は今、もう一度生まれたのだ。


第二の誕生 / 111212