Walls 下僕とか私のものになれとか、きっと彼女は簡単にそういうことを他人にいえるんだろうな、と思う。それでいてそれを何人にでも言える。俺は一度だってそういうこと、好きな子にだって言えたことないのにさ。いや、これはただの嫉妬だけど。 多分、彼女の好きは俺の好きとは違う。彼女は俺を好いてくれているけど、それはあくまで支配対象としてで、対等な関係とかじゃないだろう。それを、悲しいとは思わない。だって俺の好きもきっと、ちょっとずれてる。俺が彼女に抱いているのは憧れだ。アイドルに抱くようなそんな感情。何たって彼女は有能で恰好良くて色気もある女王様。憧れないはずがない。 彼女とは俺が因幡さんの事務所へバイトに行かなかったら、出会うことも無かった。ちょっと間が抜けてるけど正真正銘のマフィアで、俺の知らない遠い世界の人だ。結局のところ俺達は結ばれるなんてことはない。どうしようもなく、住む世界からしてももうすれ違っている。赤い糸みたいな脆いもの、簡単に崩れさってしまうような壁が聳えている。認識にしても、環境にしても。 あなたの言葉は俺のものとは違うのだ。 (だからどうかお願いします、あなたを好きにさせないでください。) |
壁 / 110109