死なない死ねない、なんて相当たちが悪い。俺の愛用のナイフは彼の皮膚にはろくに刺さらないし、それでも俺が殺すつもりで頑張って付けた傷は一日程度で治っちゃうし。絶対にナイフでは彼を殺せない(眼球みたいに柔らかいところもあるだろうけど、ナイフはそこまで絶対に通らないだろう、野性の勘というか、危機感知能力は存分に持っている彼だ)、そんなことはとうに分かっているんだ。だけど俺は彼にナイフを向けるのをやめない。だって、悔しいじゃない?俺がシズちゃんを殺せないのにシズちゃんは俺を殺す力を持ってて、俺はシズちゃんに中々干渉できないのにシズちゃんは無自覚にこんなにも俺を引っ掻き回すんだから。
「あー、もー、……ほんと、殺したい。」
試しにナイフで自分の指先を少し引っ掻くと、赤い色の血が滲んだ。ほら、こんなにも人間は脆いはずなのに。……まったくどうして、君は。

(……羨ましいとは全くもって思わないし思ってたとしてもどうしようもないから言わないけど、シズちゃんが俺みたいな普通の人間で、俺がシズちゃんみたいな化け物だったら良かったのにねぇ、なんてことはたまに思うよ。)
それだったら俺達はきっと、出会うことも無かったんだろうけどね。

指先から滴り落ちる鮮血はどこまでも赤く、含んで舐めた舌先からは、これが現実だとでもいうように苦い鉄の味が広がった。



終わりは未だ、見えない。





いつかくるそのときまで / 100701