The drowned fish can't have the dream. こんな私を愛してくれてありがとう。 さようならは言わないよ。 「――また会おうね。」 ぼとん、と幾分呆気ない音がして、彼女の身体は海上から姿を消した。真っ白な水飛沫が彼女の落ちた跡を覆い尽くした。彼の叫び声が海上に反響する、だけど海の中にはその叫びは届かなかった。彼女は深くて静かな永遠の眠りについたのだ。何もかもを包み込み飲み込んだ海は深く青く暗く濁って――彼女の身体が見つかることは無かった。 伸ばした手は掴まれることは決して無くて。だけど、それでも彼らは愛し合っていたのだ。この物語はどうしようもなく苦い苦い悲劇だけど、そこだけは嘘偽りなく。 (もう、手は届かないけど、いつか。) ……真っ赤な液体に彼の命が絡め取られるのは、もうすぐ。 |
とおいむかしのおはなし / 100701