「凌牙」彼の名前を舌に乗せる。面白い名前だなと思った。僕が言えることじゃないけれど。W兄様に異様な執着を見せる彼はトロンの手の平で踊っていることにまだ気付いていないのだろう。いや、気付いていたとしてもどうしようもないか。もう彼はW兄様に捕われてしまっているのだ。赤く濁った激情の鎖。 指先でハートピースを弄ぶ。透き通ったピンク色をした宝石は月明かりに薄く煌めいた。大会なんて馬鹿馬鹿しいものに興味はなかったけれど、ナンバーズを手に入れるためには仕方がない。トロンもきっと大会に合わせて大きな計画を立てている筈だ。ハルトの力を奪ったり、凌牙にナンバーズを渡したり。 (……きっと彼は本戦に出場するだろう。) 一年前とはいえ、W兄様を負かす直前までいったことがあるのだ。強かった。……僕が、負けた。 ぎゅうと拳を握るとハートピースがばらばらになった。そのまま床に散らばり落ちたかけらを醒めた目で見つめる。今日一日で沢山のデュエリストと戦って勝利を収めた。だけどそんなこと、あの一戦で帳消しだ。神代凌牙。やつに勝ちたい。もう一度、戦いたい。 (有象無象のデュエリストに勝ったって意味がないんだ。) (あいつに、あいつに勝ちたい。) おそらくそれは彼が兄に向ける感情によく似ていた。それは詮できるような感情じゃなくてマグマのような煮えたぎるようなものだった。僕も彼に捕われてしまったのかな。濁った赤色の鎖が見えた気がした。だけど、それでいいと思った。 (燃え上がる熱情を君に。) |
きみしかみえない / 120131